NEPENTHES in print#6 / 新潟旅行記

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for ME,MYSELF AND I

「自分のために、自分が好きなことを。

長年続けているライフワークや、ふとしたきっかけで開けた趣味の世界。
癒し、あるいは刺激を求めて。周りを気にせずマイペースに。
共通しているのは『楽しむ』というアティチュード。
好きなことを仕事に選んだ人たちが語る、仕事以外の好きなこと。」

NEPENTHES
in print#6
500yen + tax Thanks sold out

FEATURING : 滝藤賢一、清水慶三、鈴木大器、邊見馨、鈴木聡、
内藤カツ、 井伊百合子、坂元真澄、高井里江、青柳徳郎、VELVET

正月休み明けのPICK-UPに届いた『NEPENTHES in print#6』 、ぜひ店頭にてお買い求めください。PICK-UP & BarnSともに、絶賛営業中です。皆さまのご来店をお待ちしております。

PICK-UP : 024-531-6355
mail : pick82@opal.dti.ne.jp

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連休を頂いた中日、新潟へと足を伸ばす。新幹線に乗り、見慣れたバスのりばへ直行。のんびり東北巡りを思案したが、行き先の半分が休業日。やってない。旅の2日前、近所の北京料理店女将となんとなく休みの予定を話せば、『あら、〇〇と△△?いつでも行けるじゃない、面白くもない。いっそ、コジマくんの所でも行ったら良いのに。』との挑発。ちょっと癪にも触ったので、行こうじゃないか長岡。

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さぁ、いざ!のその前に、しばし腹ごしらえ。新潟の友人亀さんに教えて貰ったまま、行けず仕舞いだった文京町「とんかつ太郎分店」にタクシーを飛ばす。眼の前に現れた店構えは、とても立派と呼べる代物ではない。恐る恐る扉を押し開き見えたのは、塵ひとつなく磨き上げられた厨房に、幾多のお客を迎えた年季あるテーブル。座るのは、やっぱり厨房前のカウンター席だ。
「中カツ丼をひとつ、あと味噌汁を。」
きっと親子なのだろう、阿吽の呼吸で丼によそうご飯に、目の前で揚げたカツが4枚。蓋が閉じられる、箸を取る。

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つくづく良い。余計なことなく潔い、手を尽くした料理。さくさくとした歯触りの一枚、ご飯のしっとりが移り込んだ一枚、たれの染みた一枚、頬張るのが惜しい最後の一枚。口に入れるほどに、嬉しくなるかつ丼だ。友人に紹介され福島から来た旨伝えると、「喜んでもらえて、何よりです。」と、ほんの少し話をする。近所にこの店がある友人が、とても羨ましくなった。『ただただ直向きに、自分の仕事をする。』きっと、友人はこのことを私に伝えたかったのだろう。とんかつ太郎分店、ご馳走さま。

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次に向かうはランプリール。エフスタイルおすすめの洋菓子店だ。火曜定休のためこれまで伺えなかったが、今回は行ける。「PICK-UP since 1982 展(F/style)」、「山内工房染めもの展(F/style)」、「福島発、⇀黒磯行き(1988 CAFE SHOZO)」、「FOLKLORE(F/style)」と4回も偶然にお逢いした方だったので、常々行きたいなと思っていた。

Google mapによれば、信濃川沿いを歩いて1時間ほどの距離。気掛かりなのは、携帯電話のバッテリー。替えもなく、あと残り10%とは非情。時折吹雪となり、買ったばかりの傘が2度もめくれて、ああ無常。しかし、壊れない。新潟で売っている傘は強い。バッテリーがあと1%となったところで、ランプリールが見えた。

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不在だったオーナーさんに奥様が連絡してくださり、ようやくお話することが出来た。ショーケースに並べられたケーキやタルト、チョコレートは目に美しく、どれも全て食べてみたくなる。さすがにそれは無理かと、頼んだのはモンブラン。窓辺に見えるくぐもった鉛色の空も、新潟らしい旅の風情だ。厚かましくも、携帯電話のバッテリー充電をさせて頂く。さらに甘えて、バスのりばまで送って頂いた。身分証にしかならないペーパードライバーの私に、皆さんとっても優しい。本当にありがたい。

長岡へは高速バスで。出発まであと5分というところで、上手く乗り合わせることが出来た。これも、オーナーさんが車で送ってくださったお陰。降りしきる雪の中、バスは越後平野をひた走る。

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長岡市摂田屋。コジマくんのお世話になる長谷川酒造がある地区。-歴史の町 摂田屋-長岡の市街地は、太平洋戦争でそのほとんどを焼失したが、摂田屋は危うく難を逃れた。おかげで、醸造関係を中心に明治・大正の建物が残り、どこかしら懐かしさの感じられる景観がある。古くから街道や信濃川の川湊として開けていたと伝えられており、摂田屋という地名は中世の武士や僧侶の簡易宿泊所「接待屋」に由来するという。(NPO法人醸造の町摂田屋町おこしの会 パンフレットより抜粋)

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コジマくんと合流し、途中立ち寄ったのは『旭屋』。頼んだそばで好みのジャムを塗ってくれる老舗パン店だ。140円、デキシーピーナッツを挟んだコッペパンを奢ってくれた。いよいよである、彼の働く長谷川酒造へ到着だ。地元福島を離れ、長岡に来て4か月。その間にあったことを、じっくりと彼らが作った酒を飲み語らう。彼の戻りは来月の半ば、福島に帰って何かコトを興そうとしている。また暮らす町が楽しくなる。彼に北京料理店大ジャングイの土産を手渡し、これでひとつ任務完了だ。明日行く予定のお店にも、一報しておく。

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翌日、朝早く長岡宮内駅を離れた。もうひとつ旅の目的地である越前浜へ向かうため、信越本線で一路新潟へ戻る。この朝は寒波襲来ということもあり、電車は15分遅れ。空からは米粒大の雹がけたたましく傘を打つ。いくら調べても、越前浜へのバス時刻が読めない。去年の秋までテスト運行していた路線が終了していた。「越前浜?探しますね。」新潟駅前の案内所に駆け込み、スタッフの方2人がかりでアクセス方法を調べて頂く。15分ほど、あちらこちらに電話をかけまくり、ネットを調べ運行するバスを探して頂いた。
「あったー!巻駅から13時45分発のバスに乗ったら、40分ほどで越前浜に着くのがありますよ。(スタッフの方)」「それで往復すると、目的地には10分しか居れません、さらに福島に帰る高速バスに間に合わせたいんです。(私)」「あー、じゃあ越後曽根からタクシーで行くしかない、今から駅に向かう電車はありますよ!あと3分後に出発のが。もう、行って下さい!タクシー捕まえてね。行きは越後曽根、帰りは巻駅よ!」

正直、前だか後だか地名も混同する「越後曽根」から乗っての、目的地「越前浜」。もうわけがわからない。ええいままよ、越後線に乗り込む。鞄には3本の一升瓶、もう肩取れるかと思うほどのダッシュ。電車を降りてのタクシー、またこの運転手が良かった。「どこ行くの。ん、バス停あるよ。車で25分だけれど、歩いては行けないよ。田舎の道をなめちゃぁいけない。遠いよー、この雪だし。バス?そんな調子よぅ走ってないよ。儲かんないでしょ、乗る人いないんだから。皆、車持ってるしね。新潟?良いところだよ、米は旨いし酒はある。おまけに女も綺麗なんだから、良いトコだらけよ。優しいし一歩引いて器量も良い、だから新潟の男は駄目になる。女が良すぎるからね。根性なしなのよ、男が。お客さん、どう?こっちに越して来たら?」ときた。

越前浜バス停でタクシーを降り、目的地tetotoを探す。タクシーのおじさんは、大丈夫だろうかと不安げに走り去っていく。10分くらい探したが、雪の中当てもなく歩く不審者にしかならず、探索を諦める。ガソリンスタンドの方に聞くも、知らないとのこと。電話しよ、tetoteに。すると、バス停まで店主の増田さんが笑顔で迎えに来て下さった。

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古民家に必要最低限の手だけ入れ、2016年春お店をオープン。増田さんは、BarnSでの藤川孝之「なつのひらすみ」展でお逢いし、その後何度か新潟や福島でお逢いするご縁もある、静かな芯を持つ素敵な女性だ。伺った日が、年明けではじめて店をオープンする日だったそう。床は少し、底冷えしていた。いまは加工が厳しくなったFRP素材の靴べらは、造形作家ナカオタカシ。備前焼、細川敬弘のぐい飲み。加藤かずみの一輪挿し。寺村光輔のボウル。はじめからそこにあったかのように、在るべきところに在るディスプレイ群は、より心地よい緊張感と凛とした空気をもたらす。

ずっと探して、なかなか決まらなかった友人たちへのプレゼントを、増田さんと一緒に選んだ。その贈り物へのラッピングが、また素晴らしい。増田さんが手を動かし薄布を使いラッピングする、ぜひ皆さんにご覧頂きたい仕事だ。ちなみにPICK-UPでラッピングの際、ユーカリの葉をくるんと丸めてリース状にすることがあるが、これは彼女のアイディアを拝借したもの。

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滞在時間は一時間半ほど。作り手や、店づくりの話、この土地での暮らしぶりについて尋ねる。お茶とタンポポ珈琲で、みるみる二杯目を頂戴した。どうやら、夏の越前浜は格別に良いそうだ。鳥がさえずり、風がハンモックを揺らす。お近くの方はもちろん、そうでない方もぜひ足を運んで頂きたいtetote越前浜店。場所を記したショップカードは完成間近。わからなければ、店に電話するのが良い。笑顔で迎える店主に逢えるはずだ。

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帰りは古いバス、味のあるシート。40分ほど揺られ、巻駅に到着。そこから電車にて新潟駅へ戻る。一泊二日、今回の旅も終わり。お世話になった駅案内所のお二人に礼をし、また来たい旨伝えその場を後にする。つぎ逢ったら、ハイタッチしよう。最後の締めは、万代シティバスセンターのカレーだ。おっと、バスセンター2階には『みかづき』が提供する新潟ソウルフードの「イタリアン」もあった。

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地元の高校生が、「あの子の鼻はなしだよね?」「いや、ありでしょ。わたし女子のファニーフェイスって愛くるしくて、好きよ。」だのと、話している。向かいのテーブルは、ろう者の女性同士がいかにも楽しそうに手話で語らう姿。お邪魔します、地元に愛されるお店『みかづき』。

イタリアンをたいらげ、1階へ戻る。カレーライス小を食べて帰ろう。あの、黄色いやつ。今日は朝から何も食べず、増田さんに頂いたクリームパンとイタリアンしか腹に入れてないから、もう一食入れても大丈夫!と都合の良い言い訳をつけ、券売機へ向かう。カレーライスのボタンは赤ランプ。売り切れだ。

時刻は17時20分、バス発車の時間だ。震災のあと、旅行は目的地そのものではなく、その町に暮らす人に逢うことに変わった。食事も普段その人たちが食べているものを、そこで味わいたい。旅行者である私にとって、その場所は非日常。しかし、その町に暮らす人にとっては、当たり前にある普段の暮らし。福島に戻れば、私の日常が待っている。普段の暮らしから滲み出す、非日常。それを互いに交換し合うのだ。

そう、コジマくんと落ち合い長岡で一報入れた先は、tetote増田さん。そのとき、彼女はランプリールにいた。すべてが縁なす新潟の町、また行く。

saKae